フリーランスのWEBデザイナーが食べていけるか、現実的に考えてみた
フリーランスのWEBデザイナーをやっていると、「自由な働き方ができていいですね」「平日に休めてうらやましいです」などと言われることがあります。WEBデザイナーを目指している方が増えてきた背景には、WEBデザイナーという職業がフリーランスになりやすい、という理由もあると思います。
WEBデザインの情報をネットで検索していると、かなりの確率で、WEBデザインスクールの広告が表示されます。「3ヶ月でフリーランスデビュー」「かんたんに月5~10万円を副業でゲット」など、ポジティブな言葉が並びます。もちろん、スクールを卒業して、実際にフリーランスで活躍されている人もいます。その一方で、フリーランスになれなかったり、なれたとしても数年で挫折した人も、おおぜい存在します。
プライベートも充実した素敵な働き方。フリーランスのWEBデザイナーにそんな未来がほんとうに待っているのか、できるだけ現実的な視点で考えてみたいと思います。
目次
まずは収入面から考える
地域によって生活にかかるコストの差はありますが、WEBデザイナーを本業として生計を立てるために、月に30万円の収入が必要だと仮定します。フリーランスになると、仕事で使用する機材やサービスの契約料、税金などのもろもろの経費がかかるので、実際には収入よりすこし多めに売り上げを立てる必要があります。
WEBデザイナーは他業種に比べて経費が抑えられる
職種によって、経費がどれくらいかかるかは大きく変わってきます。カメラマンの場合は、撮影機材を購入することが必要ですし、ライターの場合は、取材にまつわる資料代や交通費などもかかってきます。クラフト販売などの場合は、材料費や送料がかかります。
自宅で作業をしているWEBデザイナーの場合、他の職種と比べて経費は低く抑えられる傾向にあります。打ち合わせはオンラインがメインで移動も少なくなってきましたし、制作用ソフトの契約料や事務所にかかる経費(自宅家賃や水道光熱費の一部)、書籍購入や数年に一度のパソコンの買い替えなど、人によっても変わりますが、収入の3割程度で収まることもあります。
これらを踏まえてざっくり計算すると、月に40万円程度の売り上げがあれば、10万円の経費を支払って、30万円の収入を得ることができます。まずは、ここを目標に考えていきたいと思います。
月40万円の売り上げは無理じゃない、でも大変なのはそこじゃない!
仕事の単価は、請け負う人や案件の内容によって大きな幅があります。とりあえず、独立から3年未満のWEBデザイナーで、それぞれの案件を下記の金額で請け負うケースで考えていきます。
- ランディングページ:10万円(1ページ)
- WEBサイト:30万円(トップページ+10ページ程度、HTML/CSSのみ)
単純計算ですが、月にランディングページを1案件、WEBサイト制作を1案件こなせば、40万円はクリアできます。WordPressで構築したり、EC機能などを組み込むことで、単価があがった場合は、1サイト制作するだけで40万円を超えることもあります。
デザイナーのスキルにもよりますが、この作業ボリュームなら、1ヶ月間毎日フルで動かなければならない、ということはないでしょう。趣味や生活に時間を使ったり、作業時間を調整して、ある程度余裕をもって仕事をすることができます。
月の売り上げを立てることよりも、立てつづけることが大変
「フリーランスデビューから半年で50万円の売り上げに到達!」という広告を目にしたことがあります。これはもちろん嘘ではないと思いますし、無理な数字でもありません。しかし、ほんとうに大変なのは、単月で40万円の売り上げをあげることではなく、この売り上げを1年間継続していくことです。
月1サイトだとすると、1年間で12サイト。3年間で36サイトです。そもそも、フリーランスのWEBデザイナー1人あたりで、これだけの数のWEBサイト制作の仕事が世の中にあるかどうか分かりません。もしランディングページ制作をメインで仕事をするなら、月に4ページ、3年間で144ページです。
どこから仕事をもらうのか
この量の仕事を、いったいどこからもらうのか、も考えなくてはなりません。たとえば、案件獲得で使われるクラウドソーシングサイトがあります。仕事を依頼したい企業と、仕事を受けたい人をマッチングするサービスですが、全体的に単価が安い案件が多いですし、ある程度の単価を狙うと競合も多くなります。1つの案件に対し、数十人が応募することもまれではありません。
企業からの仕事の募集に対し、制作者が応募をし、提案内容や実績を見て企業が制作者を選択する、という仕組みのため、どうしてもこれまでの実績や評価が高い人が選ばれていきます。クラウドソーシングサイトで高単価の案件を獲得するためには、まず選んでもらうために自分の実績をつむことも必要になります。自分自身をアピールする営業力も必要になります。
単発の仕事だけで安定させるのはかなり難しい
こうしてみると、単発の仕事だけでフリーランスとして生計をたてていく難しさが見えてきます。副業で月に10万円の売り上げも、けっして楽ではありません。クラウドソーシングサイトで案件を獲得するにしても、副業となると、ボリュームが大きかったり、スケジュールが厳しい仕事はなかなか受けられなくなります。結果的に単価が低めの案件を狙うことになるので、仮にランディングページを3万円程度で受注するなら、10万円を売り上げるには、月に3ページこなす必要があります。
自分の本業とは別に、週に1ページ弱のペースで、案件を探すところから提案、デザイン、コーディング、クライアントのやり取りから納品まで、すべてこなしつづけることになります。余裕のある生活を手に入れるつもりが、逆に副業の仕事に追われて、精神的にも時間的にも消耗していくことにもなりかねません。
安定した収入を得るためには
もし、フリーランスや副業で安定して収入を得たいなら、単発の仕事をつづけるだけでなく、他の方法も組み合わせた仕事のやり方を考えなければなりません。たとえば、定期的に仕事を発注してもらえるクライアントを複数確保すること。単価は安くなるかもしれませんが、コーディングやバナー制作などの頻繁に発生する業務を受けることで、金額は小さいですが安定した売り上げを確保することができます。
人づきあいが苦手でなければ、異業種交流会やクリエイター向けのイベントなどに参加するのも、ひとつのやり方です。たくさんの企業や制作会社と知り合っておくことで、何かあった場合に相談されることもありますし、クリエイター同士のコミュニティで仕事を紹介してもらえることもあります。
フリーランスで生計をたてるには、ひとつのやり方で仕事をつづけるのではなく、いくつかの収入源、いくつかのネットワーク、いくつかのやり方で、仕事を考えていくことが重要です。それにあわせ、自身もスキルアップし、より難しい作業や案件を受けられるようになることで、仕事の単価や売り上げをあげていくことにもつながっていきます。
それでもフリーランスをおすすめする理由
フリーランスのWEBデザイナーで食べつづけてていくのは、ほんとうに大変です。もちろん、成功している人もいますが、私自身の経験からも、周囲の人を見ても、苦労されている人のほうがたくさんいます。
毎月売り上げつづけるプレッシャー、クライアントとのやりとりや交渉、確定申告やもろもろの手続き、プロジェクト進行中に起こるトラブル対応。自分自身に問題なはくても、取引先の方針変更や社会情勢によって、とつぜん仕事がなくなることもあります。年齢を重ねて、結婚や出産、住居の購入、親の介護など、より安定した収入が必要になったタイミングでフリーランスをやめて、制作会社に再就職する人もたくさんいます。
「なんとなく自由そうだから」なら、おすすめしない
もし「フリーランスは自由でキラキラした生活を送れるから」と考えているなら、フリーランスのWEBデザイナーはおすすめしません。そもそも、数カ月勉強しただけで、楽に月何十万も稼げつづけられるスキルなんて、ほとんど存在しません。フリーランスになっても、仕事に追われ、会社に勤めているよりも、ずっと大変な生活を送るはめになります。
フリーランスとして働く楽しさ
一方で、フリーランスとして働くことの楽しさも、たくさんあります。人それぞれ感じ方は違うと思いますが、私自身は、
- 誰かに決められるのではなく、自分の責任で仕事を受けられる
- プロジェクトによってはWEBデザイナーだけでなく、さまざまな立場で参加できる(やり方しだい)
- クライアントと、より近い立場で向き合って仕事ができる
- 通勤電車にのらなくていい(けっこう大きい)
- マイペースで仕事ができる(たいへんなことも多い)
- 上手に時間を調整できれば、平日に休むことも可能
- 新しいことがやりたくなったときに、自分だけで判断ができる(これも大きい)
このあたりが、いまフリーランスとして働いていてよかったと思うポイントです。時間的な自由だけではなく、自由な立場で、かつ自分自身で責任を持って仕事に携われる、というのは、フリーランスでなければできなかったと思います。
もし、「WEBデザインで誰かの事業をサポートしたい」「情報を整理したり伝えたりするのが得意」「とにかくひとりで働きたい」「ひたすらコーディングをやってお金を稼ぎたい」など、なんでもよいのですが、明確な目的や意志があれば、フリーランスという働き方は検討の余地があります。
フリーランスを目指している人は、1人で仕事を続けていくことの大変さと、自分自身がやりたいことを照らしあわせて、それでもフリーランスになるのかどうか、一度じっくりと考えてみてください。それでも「やってみたい」と思った人は、ぜひチャレンジしてみてください!